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東京高等裁判所 昭和58年(行ケ)250号 判決

原告

株式会社タウラ

被告

岩谷産業株式会社

右当事者間の昭和58年(行ケ)第250号審決(特許無効審判の審決)取消請求事件について、当裁判所は、次のとおり判決する。

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は、原告の負担とする。

事実

第1当事者の求めた裁判

原告訴訟代理人は、「特許庁が、昭和58年9月7日、同庁昭和56年審判第17811号事件についてした審決を取り消す。訴訟費用は、被告の負担とする。」との判決を求め、被告訴訟代理人は、主文同旨の判決を求めた。

第2請求の原因

原告訴訟代理人は、本訴請求の原因として、次のとおり述べた。

1  特許庁における手続の経緯

被告は、昭和43年12月4日特許出願、昭和47年8月11日出願公告、昭和48年4月16日設定登録に係る名称を「柑橘類の早期帯色熟成法」とする特許第686165号(以下「本件特許」といい、本件特許に係る発明を「本件発明」という。)の特許権者であるが、原告は、昭和56年8月31日、被告を被請求人として、本件特許の無効審判を請求し、昭和56年審判第17811号事件として審理された結果、昭和58年9月7日、「本件審判の請求は、成り立たない。」旨の審決(以下「本件審決」という。)があり、その謄本は、同年11月12日原告に送達された。

2  本件発明の要旨

温度15~23℃、湿度85~93%、炭酸ガス0.1%以下、エチレンガス濃度3~15ppmの室内雰囲気を常時保持せしめながらこの室内空気の一部を放出するとともにこれと等量の新鮮な空気を室内に補給し、この室内雰囲気を毎時10乃至30回の速度で循環させながら、この雰囲気内において未着色柑橘類を48時間乃至72時間処理することを特徴とする柑橘類の早期帯色熟成法。

3  本件審決理由の要点

本件発明の要旨は、前項記載のとおりと認められるところ、請求人(原告)は、本件発明は、本件特許の特許出願前に国内において頒布された刊行物である昭和34年1月30日社団法人日本冷凍協会発行に係る加藤舜郎著冷凍全書(12)「青果物の冷蔵」各論(リンゴ柑橘)第125頁ないし第128頁(以下「第1引用例」という。)に記載された発明と同一であり、また、仮にそうでないとしても、本件発明は、第1引用例並びに昭和41年10月24日及び昭和42年10月30日発行の日本農業新聞九州版(以下「第2引用例」という。)に記載された公知事実に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第1項又は第2項の規定に該当し、同法第123条の規定により特許を受けることができない旨主張している。そこで、引用例を検討するに、第1引用例には、本件発明と同様未着色柑橘類の早期帯色熟成法で、温度、湿度、エチレンガス濃度及び処理時間等の処理条件を同じくする方法が記載されていることは認められるが、第1引用例記載の方法は、「この室内に炭酸ガスの濃度は容積比率で最大2%位までは許容されるが、12時間毎に又は必要あれば6時間毎に1回の割合で新鮮な空気を外からとり入れて、濃度を常時1%位までに下げることが望ましい。」(第127頁下から第9行ないし下から第6行)という記載にみられるように、炭酸ガス濃度は、1%ないし2%であり、本件発明のそれの0.1%以下より1桁上の高濃度であり、この点で本件発明とその構成を著しく異にしている。そして、本件発明は、炭酸ガス濃度を0.1%以下とする処理条件を採用することにより、他の処理条件は同一であつても、炭酸ガス濃度1%の場合に比較して帯色熟成処理後のミカンの鮮度において顕著な効果を奏し得たものと認められる。したがつて、このようなことを考慮すると、本件発明は、第1引用例に記載された発明と同一発明ということはできない。また、第2引用例には、蒸気を使用して湿度を一定に保ちつつ、エチレンガスでミカンの早期帯色熟成をなす方法が記載されていることは認められるが、エチレンガス濃度、温度、湿度、炭酸ガス濃度等その処理条件に関しては具体的数値は何も記載されていない。したがつて、第2引用例の記載事実を考慮勘案しても、本件発明は、第1引用例に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものということはできない。以上のとおり、請求人(原告)の主張する理由及び証拠方法によつては本件特許を無効とすることはできない。

4  本件審決を取り消すべき事由

第1引用例の記載内容並びに本件発明と第1引用例の記載事項との一致点及び相違点が本件審決認定のとおりであることは争わないが、本件審決は、本件発明と第1引用例記載の発明との相違点の対比に当たり、未着色柑橘類の早期帯色熟成法における炭酸ガス濃度についての周知事項を看過し、本件発明の炭酸ガス濃度が奏する効果を過大に評価した結果、本件発明は、第2引用例の記載事実を考慮勘案しても、第1引用例に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものということはできないとの誤つた結論を導いたものであつて、この点において、違法として取り消されるべきである。すなわち、

1 第1引用例の第127頁には、オレンジの場合の催色作業の一例が紹介され、果実温度が約21℃~27℃の場合の最大許容炭酸ガス濃度は2%程度であり、炭酸ガス濃度を常時1%程度となるように低下させることが望ましい旨記述されていることは、前述のとおり、本件審決認定のとおりであるが、右1%という数値は催色処理における炭酸ガス濃度の下限値を示すものではない。このことは、後記2のとおり、本件発明の特許出願日前において、当業者の常識となつていた事項である。また、第2引用例には、本件発明の特許出願日前に、エチレンガスと蒸気とによるミカンの人工追熟法が熊本県の宇城園芸連において我が国で初めて実施され成功を収めたことが紹介されており、エチレンガスを使用したミカンの人工追熟法は公知であつた。

なお、本件発明の方法は、1930年(昭和5年)代にアメリカで開発され、果実のカラリングとして普及した、炭酸ガス濃度が1%以上にならないように連続的に排気するとともに、常に外から新鮮な空気を取り入れる吸排気設備を備えた、ある程度密閉できる処理室に、エチレンを少量ずつ流し込むという柑橘類の早期帯色促進方法であるトリツクル法(甲第12号証第65頁)を、炭酸ガス濃度の点を除いてそのまま実施化したものと同一である。すなわち、トリツクル法における処理条件は、温度21~23℃、湿度90%、炭酸ガス濃度1%以下、エチレンガス濃度5~10ppm、室内空気は、温湿度及びガス濃度を一定に保ちつつ室内の空気を循環して行う、処理時間48時間というものであるのに対し、本件発明におけるそれぞれの条件は、前記本件発明の要旨記載のとおりであつて、温度、湿度、エチレンガス濃度、室内空気の循環回数、処理時間についての条件に実質的な差異はなく、炭酸ガス濃度についても、トリツクル法においては1%以下にすることを条件としている点で本件発明のそれと相違するだけである。

2 炭酸ガス濃度を1%とするか、0.1%とするかは、当業者が適宜変更して極めて容易に実施し得た単なる数値の変更にすぎず、炭酸ガス濃度として0.1%以下の処理条件を設定したことは、本件発明の特許出願当時、当業者にとつて常識若しくは周知の事項を採用したにすぎないことは、以下の事実から明らかである。

(1)  本件発明の特許出願時において、ミカンの人工追熟法における炭酸ガス濃度は低ければ低い程、すなわち、空気中の炭酸ガス濃度(0.03%)に近ければ近い程良いということは当業者の技術常識となつていた。すなわち、果実の呼吸作用によつて生産される炭酸ガスが催色室内に蓄積されて、その濃度が高くなると、果実の成熟作用が促進され、品質が悪くなることは従来より知られていることであり、そのため果実の催色に際しては、酸素不足に陥らないよう催色室内へ新鮮な空気を導入することと炭酸ガスを排出してその濃度を低く保つことが催色処理の条件の1つとされていたものであつて、催色室内の炭酸ガス濃度を低く保つ程有利であることは、当然推定されることであつた。

(2)  昭和42年10月に研究が完了し、熊本県農業構造改善経営管理指導協議会から昭和43年3月発行された「ミカンの人工催色に関する資料」(甲第4号証)には、炭酸ガス濃度に関する条件は示されていないが、人工催色室の構成や、温度、湿度、エチレンガス濃度、処理時間についての条件が示されており、果実の呼吸作用によつて炭酸ガスが排出されることから、催色中は果実温度も上昇し、果実の呼吸も盛んに行われるので、酸素不足におちいらないよう充分な換気が必要である旨報告されている。そして、催色後の果実の状態については、鮮度は無処理果実に比較して極めて高く、催色により外観を悪変させる傾向は全く認められない旨も報告されている。

(3)  熊本県果樹試験場から公表された「柑橘果実の人工催色法に関する研究」と題する研究報告書(甲第6号証)は、昭和43年9月20日に九州農業試験研究機関協議会の主催する第31回(昭和43年度)九州農業研究発表会において、熊本県果樹試験場の稲葉一男、中村寅吉の両名によつて行われた講演(その内容は甲第11号証の第153頁記載のとおり)に関連して、同年10月16日、17日に熊本県果樹試験場で行つた早生温州の人工着色の試験結果の詳細をまとめたものであるが、その第1頁には、右試験において、催色室の酸素濃度を21%に、炭酸ガス濃度を0.03%に設定した旨が示されている。なお、右講演においては、甲第6号証と同一内容がすべて発表されたわけではなく、したがつて、甲第11号証には炭酸ガス濃度についての条件は記載されていないが、エチレン濃度、温度、湿度の各条件が明記されており、酸素、炭酸ガス濃度の条件がここに示されていなくとも、当業者には、炭酸ガス濃度は低ければ低い程良いということは知られたことであるから、空気中と同様の条件のもとで右試験が行われたであろうことは容易に考えられることである。したがつて、右講演では、人工催色法に関する重要な条件と人工催色の成果が発表されたもので、詳細な内容はその後試験が行われてまとめられた甲第6号証の内容とほぼ同様のものであり、右講演を聞いた当業者であれば、その後甲第6号証の報告書を見れば、その関連が直ちに認識されるものであつて、右事実から、甲第6号証の記載内容は周知であるといえる。

(4)  また、柑橘類、とりわけミカンについての例でいえば、ミカンの生産地によつて炭酸ガス濃度を変えるべきであるという意見や考え方は、当業者にとつて公知であつたのであり(例えば、日本園芸農業協同組合連合会発行に係る「果実日本」1966年(昭和41年)8月号。甲第8号証)、この種の業界においては、炭酸ガス濃度を2%とするか3%とするかも大差ないものとされており(同号証第58頁)、0.1%も1%も濃度の選定において大差のないものと考えられていた。

(5)  昭和50年7月1日株式会社養賢堂発行に係る「農業および園芸」第50巻第7号の第65頁には、温州ミカンのCA貯蔵試験が昭和39年ころから実施された云々と述べられており、第5図には、炭酸ガス濃度を1%以下とした実験例が記されている。

(6)  本件発明の特許請求の範囲記載の諸条件は、甲第7号証の1ないし9から明らかなように、本件発明の特許出願前から公然と実施されていたものである。

3 以上のとおり、本件発明の炭酸ガス濃度の条件は、第1引用例におけるそれと相違しているが、前記のとおり、本件発明の特許出願当時、ミカンの帯色処理条件で1%が知られていた以上、これより少ない数値を選定することは技術者として極めて当然のことであり、炭酸ガス濃度として0.1%以下の処理条件を設定したことは、本件発明の特許出願当時、当業者にとつて常識若しくは周知の手段を採用したにすぎないのであつて、右条件を設定したことにより所期の効果を奏し得たとしても、それは本件発明の出願時の技術水準からすれば、当業者が容易に予測し得た効果にすぎない。被告は、炭酸ガス濃度が1%と0.1%とでは著しい作用効果上の差がある旨主張しているが、そのような事実はないのである。したがつて、第2引用例の記載事実を考慮勘案しても、本件発明は、第1引用例に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものということはできないとした本件審決の認定は誤りである。

第3被告の答弁

被告訴訟代理人は、請求の原因に対する答弁として、次のとおり述べた。

1  請求の原因1ないし3の事実は、認める。

2  同4の主張は、争う。本件審決の認定判断は正当であつて、原告主張のような違法の点はない。

1 炭酸ガス濃度を0.1%以下にすることの技術的意義

(1)  エチレンは、果実に対して種々の生理作用をもたらすが、これらの効果は、炭酸ガスが多い状態では少なくなる。したがつて、果皮の帯色処理において、エチレンの作用を減殺しないためには、処理室で多量に発生する炭酸ガスを室外に排出して新鮮な空気を取り入れる吸排気操作が当然重要になつてくるが、ここで見過ごしてはならないことは、吸排気量が多くなると、①新鮮な空気の量が増大する分だけ処理室内のエチレン濃度が希釈されて低くなり、帯色を促進するだけの濃度を維持できなくなり、逆に、処理室内のエチレン濃度を維持するために、吸排気量に見合うようにエチレンを供給すると、供給量が増大しすぎて経済的に損失を招き、②処理室の温度及び湿度が外気のそれらに接近しすぎて、いわば、処理室の帯色雰囲気を崩し、例えば、外気温が低い場合には、処理室の室温が低下して帯色作用を抑制し、逆に、外気温が高い場合には室温が高くなつて果実の呼吸作用を早め、炭酸ガス濃度を増やして所期の目的に反するばかりか、発汗作用の増大により萎調、ヘタ枯れ等の現象を起こしてしまうのである。

(2)  本件発明は、あくまでも帯色効果を最大限に発揮できることを前提に、経済性や処理室内の雰囲気保持の見地から、本件発明の明細書(特許公報(以下「本件公報」という。)第2欄第28行ないし第37行)に記載のとおり、「室内雰囲気中の炭酸ガスレベルが常時0.1%以下を保つようにするために、上記室内の空気のほぼ10%程度の新鮮な空気を外部より供給するとともにこれとほぼ等量の室内空気を放出」し、特定の循環速度で吸排気操作を行い、かつ、「室内のエチレンガスの濃度が変化することになるので、上記の新鮮な空気の取入れと併行してエチレンガスを逐次補給する」操作をすれば、実際的に「温度15~23℃、湿度85~93%、エチレンガス濃度3ppm~15ppm」の室内雰囲気を保つことができ、「このような雰囲気において、前記未成熟柑橘類を48時間乃至72時間にわたつて処理し続け」た結果、処理出庫後及び出庫時の色ぼけを防止して果実を新鮮な状態に保てるという特有の効果を奏し得たのである。すなわち、本件発明は、本件発明の要旨(特許請求の範囲の記載と同じ。)記載のとおりの所定の温度、湿度、エチレンガス濃度、処理時間及び室内雰囲気循環速度と所定の吸排気速度を一体的に組み合わせることによつて、初めて従来の炭酸ガス濃度の10分の1以上に当たる0.1%以下での処理を可能にするとともに、経済的損失がなく、処理雰囲気の管理の容易な優れた帯色処理方法を開発したものである。

2 第1引用例(甲第5号証)には、室内の「炭酸ガスの濃度は容積比率で最大2%位いまでは許容されるが、12時間毎又は必要があれば6時間毎に1回の割合で新鮮な空気を外からとり入れて、濃度を常時1%位までに下げることが望ましい」(第127頁第24行ないし第28行)と、炭酸ガス濃度の下限値を特定すると同時に、この濃度を保持するために、室内空気を、12時間毎ないし6時間毎に1回の割合で新鮮な空気を導入する旨記載されているが、炭酸ガス濃度についていえば、本件発明のそれとは1桁以上の差があり、しかも、何ゆえにその数値が選ばれるべきであるのかの理由や必要性の根拠等についても、全く言及されていないし、第2引用例には、炭酸ガス濃度について触れた記載は全くなく、ただ、未着色ミカンを着色するのにエチレンガスとナマ蒸気を利用するという、一般的な、いわばヒントだけが示されているだけで、その内容は具体性に欠け、本件発明の特徴とする構成を思わせるような記載は何一つ見られず、本件発明の明細書中で、「従来より、未成熟の柑橘類を人為的に帯色させる手段として、アセチレンガスやエチレンガス雰囲気内において前記果実をさらすことが知られている」(本件公報第1欄第34行ないし第37行)と述べていることから一歩も出るものではない。原告は、本件発明が炭酸ガス濃度として0.1%以下という処理条件を設定したことは、当業者にとつて常識若しくは周知の手段を採用したにすぎない旨主張し、右主張事実を立証するために、本件発明の特許出願の前後に発行された文献等を多数提出しているが、甲第4号証は、審判の審理時に提出されていなかつたもので、公知資料としては不適当なものであるが、その点は別にしても、甲第4号証には、炭酸ガス濃度について触れた記載は全くなく、ただ、「催色中は果実温度も上昇し、果実の呼吸も盛んに行われるので酸素不足におちいらないように充分な換気が必要である」(第18頁下から第8行目、第9行目)旨記載されているだけで、そこには、本件審決認定の根拠となつた炭酸ガスと、この濃度を維持するために必要な室内換気条件及び室内雰囲気の循環速度についての具体的な記載はどこにもない。そのうえ、第4号証に記載されているエチレンガス濃度は、20―30ppmと、本件発明のそれの6.6倍から2倍と大幅に異なつている。また、熊本県果樹試験場から公表されたという甲第6号証の研究報告書は、本件訴訟になつて初めて提出された資料であり、公開的性質を有する文書、つまり刊行物とは思えないし、不特定多数の者が見ることができるような状態におかれた、つまり頒布されたものとは思えないうえ、発行年月日、頒布の時期等も全く不明であつて、本件発明の特許出願前公知の資料とは到底認められない。甲第10号証及び第11号証は、九州農業研究発表会のプログラムと研究発表要旨を摘示したものにすぎず、炭酸ガス濃度に関連して触れた形跡は全く認められない。また、甲第8号証には、「炭酸ガス濃度は3%が良く、また2%でも大差なく、ついで5%が好結果を得た。」旨が、甲第9号証には、「最適環境気体組成はO210%前後、CO21~2%」との記載や、第5図の酸素濃度と呼吸量の関係を示すグラフに関して、「CO2は1%以下」(第65頁)との記載があるが、いずれもミカンの呼吸作用を抑制しながら数か月間にわたつて貯蔵する、いわゆるCA貯蔵法(CONTROLLED ATMO-SPHERE STORAGE)に関するもので、本件発明とは技術目的及び解決課題を全く異にするものである。特に、甲第9号証には、前記のとおり、「CO21%以下」という記載は見られるものの、その内容は、ミカンの長期貯蔵における酸素濃度と呼吸量の相関関係を示すにとどまるもので、本件発明が目的とする数日間の短期出荷調整のためのエチレンガス使用による未成熟ミカンの早期帯色熟成法に関する技術に関する文献ではない。したがつて、甲第8号証及び第9号証は、本件発明とは全く比較の対象とはなり得ない技術である。更に、甲第12号証には、「トリツクル法の原理は、炭酸ガス濃度が1%を越えない空気中にエチレン濃度を一定に保つことである」との記載があるが、「カラリング方法」の項(第63頁以下)で述べられている事項は、すべて本件発明の特許出願公告後に発表されたものであるばかりか、右記載に続いて、「最近、アメリカでは効果的なカラリングには炭酸ガス濃度を0.1%以上にしないことが必要であるとさえいわれている。」との説明があり、「最近」とは、甲第12号証の冒頭の著者の言葉の日付が昭和49年10月であることからすれば、右年月日に近接した時期であり、少なくとも本件発明の出願日(昭和43年12月4日)あるいは公告日(昭和47年8月11日)以降であることは確かであつて、そうだとすれば、炭酸ガス濃度が0.1%以下の状態で催色処理をすれば、1%以下で処理する従来のカラリングとは異なり、「効果的なカラリング」ができるという事実あるいは示唆は、本件発明の特許出願の後かその公告の後の「最近」になつて得られたものとするのが合理的である。なぜならば、「効果的なカラリング」ができるという事実あるいは示唆が分かつていれば、トリツクル法開発の当初、すなわち1930年代から既に実施されていたであろうからであり、「最近」になつてようやく「炭酸ガス濃度を0.1%以上にしないことが必要であるとさえいわれている」という実情は、炭酸ガスを0.1%以下で処理すれば効果的なカラリンダが得られるという技術的思想が、当業者間において「最近」まで夢想だにされていなかつたことを示すなによりの証左である。なお、甲第7号証の1ないし9の証明書には、本件発明の発明の要旨記載の諸条件を充足する帯色方法は、本件発明の特許出願前において公然と実施されていた旨記載されているが、この証明書は、原告側で一方的に作成した証明願に、山本滋外5名の者が単に記名捺印しただけのものにすぎず、しかも、15年以上も以前に実施された柑橘類の早期帯色熟成条件を、各証明書に記載してあるようにこと細かに各証明者が記憶していたとは、常識上到底考えられない。よつて、これら証明書には、何ら証明力はない。

以上を総括すれば、原告提示の甲号各証から、炭酸ガス濃度と柑橘類の帯色作用との関係を知ることは不可能である。まして、炭酸ガス濃度を連続入替え方式により、0.1%以下に抑えれば、帯色に好影響を与え、特にミカン出庫後の色ぼけをなくすという好結果を得るに至ることは、当時の技術水準では決して容易なことではなかつた、といわなければならない。

第4証拠関係

本件記録中の書証目録記載のとおりであるので、これを引用する。

理由

(争いのない事実)

1  本件に関する特許庁における手続の経緯、本件発明の要旨及び本件審決理由の要点が原告主張のとおりであることは、当事者間に争いがないところである。

(本件審決を取り消すべき事由の有無について)

2 原告は、本件審決は、本件発明と第1引用例の記載事項との相違点の対比に当たり、未着色柑橘類の早期帯色熟成法における炭酸ガス濃度についての周知事項を看過し、本件発明の炭酸ガス濃度が奏する効果を過大に評価した結果、本件発明は、第2引用例の記載事実を考慮しても、第1引用例に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものということはできないとの誤つた結論を導いたものであつて、この点において、違法として取り消されるべきである旨主張するが、右主張は、以下に説示するとおり、理由がないものというべきである。

1  前記当事者に争いのない本件発明の要旨に成立に争いのない甲第2号証(本件公報)を総合すれば、本件発明は、早期に摘果した未成熟柑橘類を人為的に、早期に完全帯色熟成させることによつて、柑橘類の摘果時期が一時に集中することによつて生ずる人手不足の問題や出荷最盛期における市場価格の廉価となること等の問題の解決を図るとともに、早期摘果を可能にすることによつて果樹を保護し、樹勢の回復を早め、隔年実果を防止することを目的とする、柑橘類を人工的に帯色熟成させる方法に係る発明であり(甲第2号証第1頁第1欄第12行ないし第33行)、従来、その方法として、未成熟柑橘類をアセチレンガスやエチレンガス雰囲気内においてさらすことが知られていたが、この方法では帯色速度が遅く、しかもヘタ枯れを起こしやすく、また、果実内部の熟成が果皮の帯色と均衡せずに未成熟状態のままでとりのこされていることが多く、商品価値の低下を招くおそれがあつた(第1頁第1欄第34行ないし第2欄第4行)ところ、本件発明はこの従来の方法の欠点を解決することを課題とし、(1)ミカンは摘果後が一番呼吸作用が激しく、また、温度が高いほど呼吸作用が大きく、呼吸作用が激しいとそれだけ室内の酸素が少なくなり、炭酸ガスも蓄積されることになることから、炭酸ガス濃度と着色度合の関係について、いずれも温度21℃、湿度85~93%、エチレンガス5ppm、室内循環回数20/Hと一定にしておいて、炭酸ガス濃度だけを0.1%以下、1%以下、10%以上と変えて実験をした結果、炭酸ガス濃度が0.1%以下の場合には新鮮な着色度合を示したが、1%以下の場合は、出庫後3日で少しぼけた色になり、10%以上の場合には、出庫後2日でぼけて色あさい感じになつたこと、すなわち、炭酸ガスの濃度が1%を超えると呼吸作用に影響がみられ、着色度合には影響はないが、出庫後及び出庫時の色が全体にぼける原因をつくること、また、10%以上になると、着色状態に大きな影響が表れ、着色はオレンジカラーにならず、レモン色が多く、ヘタ枯れを生じ萎調しやすくなることが判明し、したがつて、新鮮な空気を外部より補給すると同時に、炭酸ガスの一部を外部に排出して、室内の炭酸ガスレベルを少なくとも0.1%以下に維持する必要がある(第3頁第6欄13行ないし第5欄末行)、(2)一般に、果実はその呼吸作用が盛んになると、炭酸ガスと同様に水分も発散し、この発散作用は温度が高くなるほど盛んになるので、その分を湿度によつてカバーする必要があり、また、ガスの分布状態が場所によつて相違を来し、果実の帯色促進に悪影響を及ぼすことになるので、室内の空気を適当な速度で循環させる必要を生じるが、多くの実験の結果、室内の風量は毎時10ないし30回転にすることが、すべての条件を満足させる上に最も都合が良い(第3頁第6欄第35行ないし第4頁第7欄第4行)との知見に基づいて、本件発明の要旨(特許請求の範囲の記載と同じ。)のとおりの方法、すなわち、40~60%程度帯色した未成熟柑橘類を、採取後12時間以内に処理室に入れ、酸素と炭酸ガスのバランスをほぼ一定に保ち、かつ、適当の温度と湿度に調整した処理室内に一定量のエチレンガスを供給し、該室内の空気を一定の風量で循環させるようにした雰囲気内において、48時間ないし72時間以内に未成熟柑橘類を処理することを特徴とする方法(第1頁第2欄第5行ないし第16行)を採り、これにより所望の優れた効果を奏し得たものであることを認めることができ、右認定の事実によれば、本件発明の要旨記載の柑橘類の早期帯色熟成のための温度、湿度、炭酸ガス濃度、エチレンガス濃度、室内雰囲気の1時間当たりの循環回数等の処理条件は、前認定の本件発明の解決課題の観点から最良と思われるものを組み合わせて定められたものであり、特に炭酸ガス濃度についていえば、他の条件とあいまつて前記顕著な効果を奏するものとして選択されたものと認められる。

2  一方、第1引用例に、本件発明と同様未着色柑橘類の早期帯色熟成法で、温度、湿度、エチレンガス濃度及び処理時間等の処理条件を同じくする方法が記載されていること、及び第1引用例記載の方法においては炭酸ガス濃度が、1%ないし2%であるのに対し、本件発明の炭酸ガス濃度は0.1%以下であつて、両者が、炭酸ガス濃度の点において相違することは原告の自認するところであり、また、成立に争いのない甲第3号証の1及び2によれば、第2引用例は、「ミカン人工追熟に成功」と題する記事(昭和41年10月24日付日本農業新聞)及び「好成績のミカン人工追熟法」と題する記事(昭和42年10月30日付日本農業新聞)であるが、それらの記事には、熊本県の宇城園芸連が、昭和41年秋産の早生温州からエチレンガスと生蒸気を用いて人工着色する処理方法を実施しているとの事実のほか、人工着色法の原理、方法、処理時間、着色の程度は個室に入れる前のミカンの着色の程度やエチレンガス濃度によつて調整すること等の技術的な事項が抽象的に記載されているだけで、処理条件についての具体的な記載はなく、また、室内空気の循環に関する事項や炭酸ガス濃度及び右濃度がミカンに及ぼす影響等本件発明を想起させるような何らの記載もないことが認められる。

ところで、本件発明と第1引用例との前記相違点に関し、原告は、甲第4号証、第6号証、第7号証の1ないし9、第8号証ないし第11号証及び第12号証の1ないし3を挙示し、炭酸ガス濃度を1%とするか、0.1%とするかは、当業者が適宜変更して極めて容易に実施し得た単なる数値の変更にすぎず、炭酸ガス濃度として0.1%以下の処理条件を設定することは、本件発明の特許出願当時、当業者にとつて常識若しくは周知の事項であつた旨主張するから、検討するに、甲第4号証(成立に争いはない。)は、熊本県農業構造改善経営管理指導協議会が昭和43年3月に発行した「ミカンの人工催色に関する資料」と題する文書であつて、早生温州ミカンに対するエチレンガスによる人工催色技術確立試験並びに実用化試験の実施結果を取りまとめたものであるところ、右文書には、人工催色法における温度、湿度、エチレンガス濃度、処理時間についての詳細な記述はあるものの、炭酸ガス濃度についての記載は全くない。なお、右資料中の「人工催色技術確立試験」の項中「(3)試験結果」には、「一定時間後入口の扉を開放するとともに、ダンパー切換えにより室外の新鮮空気の導入をおこない、室内空気の全量を換気するといつたことを繰返したわけである」(第8頁第10行ないし第12行)との記載及び、第6表「エチレン処理のレモン果の呼吸量」として、果実1kgより1時間に排出するCO2量mgの記載(第18頁)があり、続いて、「早生温州においては調査した成績を見ないが、酸素の必要量はほぼレモンと同様に見てよいであろう。催色中は果実温度も上昇し、果実の呼吸量も盛んにおこなわれるので酸素不足におちいらないよう充分な換気が必要である。換気量は催色する果実量と、催色室の容積量(この場合果実容量および容器の容積を差引いた容積)から算出するが呼吸作用に必要な酸素量を最少限度の必要量として、常にそれ以上の量を送風する必要がある。」(同頁下から9行目ないし4行目)との記載、次いで、「総合考察」の項に、「室外からの酸素供給は加温加湿器に接続されているダンパーの開閉によるが、催色果実が必要とする酸素量を最少限度の必要量として、それ以上の量を室内に供給する必要がある。空気中の酸素濃度がほぼ3%以下になると果実の成熟作用は正常に進んでいないと言われており、この点注意が必要である。」(第33頁第22行ないし第34頁第2行)との記載があることが認められるが、これらの記載は、催色には酸素が必要であり、酸素を充分に供給する必要があることを述べているにすぎず、炭酸ガス濃度の催色に与える影響について述べているわけではなく、その他右甲第4号証を精査するも、炭酸ガス濃度の催色に与える影響についての具体的な記載は見当たらない。次に、甲第6号証(成立に争いはない。)は、「柑橘果実の人工催色法に関する研究」と題する研究報告書であつて、右報告書には、早生温州ミカンの人工催色試験を昭和43年10月16日、17日に行つたこと、右試験は催色室内で行い、催色中の室内は、常に温度25℃、湿度85%、エチレンガス濃度20ppm、酸素21%、炭酸ガス0.03%の雰囲気にしたことが記載されている。しかし、右報告書の発行年月日、頒布年月日は不明であるのみならず、この点を別にしても、同号証によれば、右試験は、未成熟柑橘類の帯色処理に当たり、催色室の換気量(O2量)を決定するうえで重要なエチレンガスの果実の呼吸量に及ぼす影響等を知ることを主たる目的として行われたものであり、そのために、前認定のとおりエチレンガス濃度を20ppm(本件発明のエチレン濃度の範囲外に当たる。)と設定し、酸素濃度を21%、炭酸ガス濃度を0.03%、すなわち、大気をそのまま利用し(右の酸素及び炭酸ガス濃度が新鮮な空気中のそれと同一であることは、当裁判所に顕著な事実である。)、温度を25℃(本件発明の温度範囲外である。)、湿度を85%として、実験を行つたものにすぎず、換気量の算定は次年度の検討課題としたことが認められ、叙上の事実に徴すれば、同号証は、柑橘類の人工催色法において炭酸ガス濃度を0.1%以下にすることが本件特許出願日前に周知の方法であつたことを示す証拠とは認め難く、このことは、後記認定の甲第12号証の1ないし3の記載内容からも首肯することができる。また、甲第10号証(成立に争いはない。)及び第11号証(原本の存在及び成立に争いはない。)は、昭和43年9月20日に九州農業試験研究機関協議会の主催する第31回(昭和43年度)九州農業研究発表会において熊本県果樹試験場の稲葉一男、中村寅吉の両名によつて行われた講演のプログラムと研究発表の要旨を摘示したものであるが、いずれにも炭酸ガス濃度に関する記載は存しない。更に、甲第8号証(成立に争いはない。)は、昭和41年8月15日日本園芸農業協同組合連合会発行の「果実日本」8月号の「ミカンのCA貯蔵」と題する論文であつて、右論文には、「問題のCO2とO2の濃度であるが、いままでの結果では3%―3%がよく、2%―2%も大差なく、ついで5%―5%が好結果を得た。」(58頁第1段第2行ないし第8行)旨の記載があるが、「CA(CONTROLLED ATMOSPHERE)貯蔵」は、室内の雰囲気を調節することによつて、ミカンを長時間保存するための方法であつて、本件発明とは、エチレンガスを使わないという点で全く異なるばかりか、本件発明の早期帯色熟成法とはその目的が逆であつて、右の記載をもつて、エチレンガスを用いる早期帯色熟成の際の適切な炭酸ガス濃度を示しているものとは解されないし、また、甲第9号証(成立に争いはない。)は、昭和50年7月1日株式会社養賢堂発行に係る「農業および園芸」7月号の「温州ミカン貯蔵技術の現状と問題点〔5〕」と題する論文であつて、右論文にはCO2とO2の関係についての記述(第65頁左欄下から8行目ないし同頁右欄)があるが、右記述は、酸素と炭酸ガスを調節してミカンを貯蔵する方法に関しての記述であつて、右の記載もエチレンガスを用いる早期帯色熟成の際の適切な炭酸ガス濃度を示しているものとは解することができない。更に、甲第7号証の1ないし9(いずれも成立に争いはない。)は、農業協同組合長あるいは同連合会長等の作成した証明書であるが、その記載はいずれも具体性を全く欠いているばかりか、第1引用例の記載及び後記認定の第12号証の1ないし3の記載内容に照らし、直ちに措信することはできない。また、甲第12号証の1ないし3(成立に争いはない。)は、昭和49年11月20日誠文堂新光社発行に係る北川博敏著「ミカンのカラリング」と題する本であるが、右本には、エチレンガスを用いて果実を人工着色させる方法は、アメリカでは1923年に既に特許され、日本でも昭和40年代に研究が始められたこと等が記載されている(同号証の2第6頁ないし第8頁)ところ、カラリングにおける酸素、炭酸ガス濃度とエチレンの作用について、「エチレンは、果実に対して前述のような種々の生理作用を持つているが、これらの作用の効果はエチレンを含む空気の酸素、炭酸ガス濃度と関係があり、酸素が少ない状態及び炭酸ガスが多い状態では効果が少なくなる。」(同号証の2第48頁)、「通常、炭酸ガス濃度が2%になるとカラリングの効果はなくなるといわれている。後に述べる……トリツクル法というカラリングの方法は、いずれもこの点を考慮して開発されたものである。」(同号証の2第49頁)との記載が、また、トリツクル法について、「世界的に最も広く普及しているカラリングの方法である。」、トリツクル法の原理は、「炭酸ガス濃度が1%以上にならないよう連続的に排気するとともに常に外から新鮮な空気を取り入れる吸排気設備を備えた、ある程度密閉できる処理室に、エチレンを少量ずつ流し込む方法である。」(いずれも同号証の2第65頁)との記載があることが認められるものの、積極的に炭酸ガス濃度を0.1%とすることが好ましいとの記載やこれを示唆する記載は、何ら認めることができない。

以上のとおり、原告提出に係る叙上甲号各証は、本件発明の特許出願前、エチレンガスを用いる柑橘類の早期帯色熟成法において、炭酸ガスの量を0.1%以下とすることが当業者にとつて常識若しくは周知の事項であつたことを認めしめるに足りず、その他原告の右主張を認めるに足りる資料はない。かえつて、前掲甲第12号証の1ないし3によれば、その「(7)空気の循環と吸排気」には、「トリツクル法の原理は前に述べたように炭酸ガス濃度が1%を越えない空気中にエチレン濃度を一定に保つことである。最近アメリカでは効果的なカラリングには炭酸ガス濃度を0.1%以上にしないことが必要であるとさえいわれている。新鮮な空気は0.03%の炭酸ガスしか含んでいないが、処理室果実の呼吸によつて多量の炭酸ガスが発生するので、これを室外に搬出しなければならない。この意味で吸排気は非常に重要である。」(同号証の2第76頁第11行ないし第17行)との記載があることが認められるのであつて、右記載によれば、少なくとも、炭酸ガス濃度を0.1%以上としないことが必要であるとの知見は、右甲第12号証の1ないし3の発行時期である昭和49年11月20日に近い時期における知見であつて、本件発明の特許出願日である昭和43年12月4日当時炭酸ガス濃度を0.1%以下とする柑橘類の人工催色法が周知でなかつたことを窺わせるものということができる。

3  叙上認定したところによれば、本件発明における炭酸ガス濃度は第1引用例のそれの10分の1ないし20分の1であつて、炭酸ガス濃度を10分の1ないし20分の1にすること自体は、吸排気量を多くすることによつて可能であるが、吸排気量を多くすると室内の温度、湿度、エチレンガス濃度等に影響を与えることは明らかであり、前掲甲第5号証によれば、第1引用例は、未着色柑橘類の着色という目的を達するためには炭酸ガス濃度を1%位とすることが好ましいものとしたものであることが認められるところ、本件発明は、単に帯色を促進するだけではなく、出庫後の色ぼけを防止するという目的のもとに、室内の温度、湿度、エチレンガス濃度等の条件を変えることなく、炭酸ガス濃度を従来の方法の10分の1ないし20分の1にしたのであつて、このようにすることは必要に応じて適宜なし得ることとは直ちにいえず、本件発明の奏する出庫後の色ぼけを防止するという前認定の顕著な作用効果を勘案すると、第2引用例記載の事項を考慮に入れても、本件発明をもつて第1引用例及び第2引用例の記載に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとは到底認めることができない。

(結語)

3 以上のとおりであるから、その主張のような違法のあることを理由に本件審決の取消しを求める原告の本訴請求は、理由がないものというほかはない。よつて、これを棄却することとし、訴訟費用の負担について、行政事件訴訟法第7条及び民事訴訟法第89条の規定を適用して、主文のとおり判決する。

(武居二郎 高山晨 川島貴志郎)

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